「実務経験を積む場所がない」ときの選択肢。保安法人に入れなくても外部委託を目指せる5つの道
「電験三種に受かった。でも、実務経験を積ませてくれる職場が見つからない」
YouTube「電気保安の学校」に、いちばん多く届く悩みの一つです。
外部委託の仕事(電気管理技術者)を受けるには、免状に加えて実務経験が要ります。ところが、その経験を積める場所がなかなかありません。保安協会や保安法人に入れればいいのですが、経験のない人を中途で受け入れてくれるところは、私の知るかぎり多くありません。
2024年の春、私は動画で「実務経験を積むところがない。この問題の解消に挑戦する」とお話ししました。あれから制度も変わり、選択肢は確実に増えています。
この記事では、保安法人に入れなくても外部委託を目指せる道を、2026年11月時点の経済産業省の資料で確認しながら整理します。
結論:実務経験を積む道は、5つある
実務経験の数え方は、「どんな立場で働いたか」で決まっています。まず全体を表にします。
| 道 | 数え方 | 証明してもらう相手 | 向いている人 |
|---|---|---|---|
| ① 電気管理技術者の補助者 | 点検21件で1か月分 | その電気管理技術者 | 会社員のまま、または個人事業主として積みたい人 |
| ② 保安法人に入り、補助者として働く | 点検21件で1か月分 | 保安法人 | 毎日現場に出て、集中して積みたい人 |
| ③ 選任された主任技術者の下で、その事業場に常駐して働く | 従事した期間 | 設置者(会社) | ビル管理・工場の電気係などに転職できる人 |
| ④ 自分が電気主任技術者に選任される | 選任されていた期間 | 設置者(会社) | 電験二種などを持ち、選任先を探せる人 |
| ⑤ 電気工事業者として高圧の工事に従事 | 21日の従事で1か月分 | 設置者、または雇用主 | 電気工事の現場で働いている人 |
①〜⑤は合わせて数えられます。たとえば、③で1年働いたあとに①で残りを積む、という組み合わせもできます。
さらに、免状の交付を受ける前の実務経験も、その半分の期間を数えられます。電気工事や設備管理の仕事をしてきた方は、思っているより残りが短いかもしれません。
必要な年数そのもの(第三種で5年、講習と訓練を修了すれば2年、小規模設備に絞れば1年など)は、別の記事で詳しくまとめています。
動画を撮ったときから、大きく変わったこと
2024年3月に動画を撮ったとき、補助者として積む場合でも「月に21日働いて1か月分」でした。1日に何件回っても1日は1日です。だから動画では「月20日、ほぼ毎日拘束される。その間どうやって食べていくか」という話をしています。
その直後、**2024年4月1日から、補助者として点検した場合は「設備21件の点検で1か月分」**に変わりました。
- 1か月に21件を超えても、1か月分です(超えた分は翌月に回せません)
- 21件に届かない月は、同じように届かなかった他の月と合わせて数えられます
1日に5件回れば、5日で1か月分です。「毎日拘束される」という最大の壁は、この改正でかなり低くなりました。
① 電気管理技術者の補助者になる
いま、保安法人に入れない方にとって、いちばん現実的な道です。
独立している電気管理技術者の点検に、補助者として同行します。会社員を続けながら休みの日に回る人もいれば、私が動画でお話ししたように、個人事業主として業務委託の形で同行するやり方もあります。
受け入れてくれる人の探し方
一番の難関は、受け入れてくれる電気管理技術者を見つけることです。待っていても声はかかりません。
- 地元で開業している電気管理技術者に、直接会いに行って相談する
- 保安管理業務講習など、同じ目標の人と現場の技術者が集まる場に出る
- 電気工事店さんなど、電気管理技術者とつながりのある人に紹介を頼む
始める前に、必ず決めておくこと
補助者として積んだ経験は、最後にその電気管理技術者の証明を受けて申請します。点検した事業場と件数の一覧も出します。せっかく積んでも、証明してもらえなければ申請できません。
始める前に、証明してもらえるか、記録をどちらがどう残すか、報酬や契約期間をどうするかを話し合い、業務委託契約書などの形にしておくことをすすめます。書き方は次の記事にまとめています。
補助者の道の、もう一つの良さ
電気管理技術者は、工場、店舗、病院、事務所と、さまざまな業種のお客様を受け持っています。補助者として同行すると、いろいろな業種の設備を見られます。
「1つの工場の設備しか知らないまま独立するのが不安」という声もよく聞きます。どこで積んでも実務経験は実務経験ですが、独立してから困らないのは、幅広い設備を見てきた人です。
② 保安法人に入る
保安協会や保安法人に入り、保安業務従事者の補助者として現場に出る道です。毎日現場に出られるので、経験の中身は濃くなります。
ただ、私が動画でお話ししたとおり、独立を前提にした人を歓迎してくれる保安法人は多くないと私は感じています。面接で「独立するために入ります」とは言いにくい。本心を隠したまま3年、5年働くのは、本人にとってもつらいことです。
入るのであれば、その会社が何を大事にしているか(理念や方針)をよく見て、働く人の将来まで考えてくれる会社かどうかを確かめてください。そういう会社なら、きっと良い経験になります。
③ 選任された主任技術者の下で働く
ビル管理会社や工場の設備部門などで、選任された電気主任技術者の下で、その事業場に常駐して働いた期間も実務経験になります。
求人の数でいえば、この道がいちばん多いかもしれません。ただし、気をつけたい点があります。
- 低圧の設備だけの仕事や、受電設備を含まない設備だけの維持・運用は、実務経験として認められません
- 「常駐して」実務に従事していることが前提です
転職する前に、その職場で高圧の受電設備の点検にどこまで関われるかを確かめておきましょう。
④ 自分が選任される
電験二種などを持っていれば、太陽光発電所などに電気主任技術者として選任され、その期間を実務経験にする道もあります。収入を得ながら確実に積めるのが強みです。この道は、独立までの全体の流れと合わせて別の記事で詳しくお話ししています。
⑤ 電気工事の経験を活かす
電気工事業者やその従業者として、高圧の受電設備などの工事に従事した経験は、21日の従事で1か月分として数えられます。工事の内容と工期をまとめた一覧も出します。
ただし、低圧の電気工作物だけの工事は実務経験になりません。今まさに電気工事の現場にいる方は、高圧の仕事にどれだけ関わってきたか、一度振り返ってみてください。
積んでいる間の収入を、どうするか
補助者の道を選ぶとき、必ずぶつかるのがお金の問題です。
動画を撮った2024年の時点で、私は「月次点検の補助で入っても、1件数千円。月10万円にも届かない」とお話ししました。これはいまも大きくは変わらないと思います。補助者としての報酬だけで家族を養うのは、正直難しいです。
だから私は、電気の技術で単発の仕事を取れるようになることをすすめています。たとえば、次のような仕事です。
- 年次点検の応援や、継電器試験などの試験業務
- 太陽光発電設備の点検(絶縁抵抗測定、I-Vカーブの測定、赤外線カメラでの診断など)
- 太陽光発電設備の使用前自己確認に関わる試験
太陽光の仕事はこれからも増えていきます。技術を身につければ、実務経験を積みながら食べていく道が開けます。なお、コンセントやブレーカーの取り替えなど、電気工事士の資格が必要な作業もあります。自分が持っている資格でできる仕事かどうかは、必ず確かめてください。
一つ知っておいてほしいのは、独立して個人で外部委託を受けるときは、「他に職業を有していないことの説明書」を出す決まりがあることです。積んでいる間の仕事と、独立してからの働き方は分けて考え、迷ったら監督部に相談してください。
場所は、待っていても来ない
実務経験は、自分の努力だけでは積めません。受け入れてくれる人がいて、初めて積めるものです。電験は机の上の努力で取れましたが、経験の場は、自分から動いて取りに行くしかありません。
それでも、2024年からの改正で、保安法人に入らなくても外部委託を目指せる道ははっきりと開きました。21件で1か月、講習と訓練で2年、小規模設備なら1年。数年前には考えられなかったことです。
5つの道のどれが合うかは、今の仕事、家族、住んでいる地域で変わります。一人で悩まず、先に走っている人に相談してください。
動画でも詳しく解説しています
実務経験を積む場所の問題は、YouTube「電気保安の学校」でも何度もお話ししています。
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参考にした公的資料
- 経済産業省「電気事業法施行規則第五十二条の二第一号ロの要件等に関する告示第一条の事業用電気工作物の工事、維持又は運用に関する実務に従事した期間の確認に係る運用について」(2024年4月1日施行)
- 経済産業省「外部委託の受託に必要な実務経験期間の確認について」
- 中部近畿産業保安監督部近畿支部「保安管理業務に従事したい方」(2026年1月30日更新)
- 経済産業省「電気事業法施行規則第五十二条の二第一号ロの要件等に関する告示」(平成15年経済産業省告示第249号)
この記事は2026年11月時点の情報です。申請・判断の前に、所轄の産業保安監督部で最新の内容を確認してください。
経験を積む場所は、待つものではなく、自分で作るものです。その一歩を踏み出す方を、私は全力で応援します。
株式会社電気保安HIKARI 代表 江嵜祐二
この記事を書いた人:電気保安HIKARI

